【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】韓国大統領選挙:深刻な分断社会

 東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。

同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。



韓国大統領選挙:深刻な分断社会

冨樫あゆみ・東洋英和女学院大学講師 
















就任式で演説する尹大統領©JEON HEON-KYUN/AFP

2022年5月10日、尹錫悦(ユン・ソギョル)氏が韓国第20代大統領に就任した。3月10日に実施された大統領選挙において、野党保守系政党「国民の力」尹錫悦候補が当選したことは、まさに異例と言える。法曹出身で検事総長を務めた尹錫悦氏は政治経験が皆無であり、政治経験のない大統領候補の当選は初めてのことであった。

加えて第20代大統領選挙の選挙戦は「泥仕合」であった。与党進歩系政党「共に民主党」李在明(イ・ジェミョン)候補は大庄洞開発事業をめぐる収賄疑惑の渦中にある人物であり、検察出身の尹候補は李候補を厳しく非難した。一方、李候補は政治経験のない尹候補の大統領としての適性を疑問視するなど、両陣営のネガティブキャンペーンは過熱した。「歴代最悪の非好感大統領選挙(どちらの大統領候補も選びたくない)」とも言われた大統領選挙戦であったが、77.08%という高い投票率とともに、保守系の尹錫悦候補の勝利によって幕を閉じた。1987年の民主化以降、奇しくも進歩系政党と保守系政党の政権交代は2期10年ごとに実現してきたが、進歩系は2017年の保守系朴槿恵大統領の弾劾からわずか1期5年で政権を明け渡すことになった。

今回の大統領選挙の最大の特徴は、保守と進歩という韓国特有の政治思想をめぐる社会の分断を顕在化させたことにあったといえる。尹候補と李候補との得票率の差はわずか0.73%であり、票数にしてわずか24万7000票であったことも大統領選挙をめぐって国民が二分したことを表している。特に、地域やジェンダー間においても進歩と保守の二分化が顕著であった。韓国は地域によって進歩と保守の支持率が異なるが、今回の大統領選挙でその傾向は加速した。保守優勢の大邱市では有権者の75%が尹候補へ投票し、進歩優勢の光州市では李候補の得票率は84.8%に達した。

進歩と保守をめぐるジェンダー間の分断は20代から30代が該当するMZ世代で顕著に見られた。女性の人権保護などを担当する女性家族部(日本の省に該当)の廃止を宣言した尹候補に対し、李候補はMZ世代の女性からの支持拡大を狙った。結果として20代女性の58%が李候補へ投票した一方で、尹候補は20代男性の60%から票を獲得した。

尹新政権の喫緊の課題は社会統合である。今や野党となった「共に民主党」が国会の大多数を占めるねじれ国会の状況にあって、安定した政権運営のためにも、何よりも韓国が成長を続けるためにも、尹新政権は分断した社会を立て直す必要に迫られている。

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