【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】フィンランド・スウェーデンのNATO加盟

  東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

 この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。


フィンランド・スウェーデンのNATO加盟

小久保 康之(国際社会学部 教授)

   

©ANDREW CABALLERO-REYNOLDS / AFP        
クリステション・スウェーデン首相(左)とブリンケン米国務長官

 長年、非同盟政策を選択してきたフィンランドとスウェーデンは、2022224日のロシアによるウクライナへの軍事侵攻直後の20225月にNATO(北大西洋条約機構)への加盟を申請した。翌6月のNATO首脳会議は両国の加盟を承認し、フィンランドは202344日に、そして202437日にスウェーデンが正式に加盟したことで、NATO32カ国体制に拡大した。


 スウェーデンはナポレオン戦争後の1814年から200年以上、平時は非同盟を、戦時は中立を貫いてきた。フィンランドは、同国の中立を認める友好相互協力援助条約をソ連と1948年に締結して以来、非同盟政策を取ってきた。


 冷戦中、両国は政治的には西側の価値共同体に属しつつも、国際的な紛争には中立を維持してきた。しかし、冷戦崩壊後、両国は1995年にEUに加盟し、共通安全保障防衛政策にも積極的に関わるようになった。1994年にNATOの「平和のためのパートナーシップ(PfP)」にも参加。ボスニア、コソボ、アフガニスタン、リビアなどへのNATO指揮下の部隊に自国軍を派遣して、軍事面でNATOとの相互運用性も高め、非同盟路線を堅持しつつも、いつでもNATOに加盟できるように準備してきた。


 両国は、2008年のロシアによるジョージア介入、2014年のクリミア半島の一方的併合により、ロシアの脅威を現実的なものとして認識せざるを得なくなっていた。202112月にロ
シアがNATOと米国に対して、NATOが更なる拡大をしないことを文書で確約するよう要請してきた。これに対して、NATOも米国も即座に拒否したが、自由に軍事同盟を結ぶ選択肢をロシアに奪われることを懸念したフィンランドとスウェーデンは、NATOへの正式加盟を検討するようになった。翌年のロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、両国がNATO加盟を決断する決定的な後押しとなったのである。

 フィンランドとスウェーデンが加盟したことで、NATOがバルト海と北極圏を勢力下に置くことになり、対岸に位置するポーランドとバルト3国の防衛も強化される。スウェーデンの潜水艦隊を始めとして、両国は有能な軍事部隊を有しており、NATOの北方における安全保障体制は一段と強化されることになる。ロシアのバルチック艦隊には制約が追加され、NATO対ロシアの対立構造が一層鮮明になるであろう。




コメント