社会科学から映画制作の道へ―東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻に進学(後編) ――山下琴音さん国際社会学科 (2023年度卒業)

 

後編では、芸術系の大学院進学までの紆余曲折をお聞きします。どのような経緯で社会科学系の学部で学んだ山下さんが藝大の大学院に進学を実現したのでしょうか。

―山下さんは映画「夜明けのすべて」(監督:三宅唱)にエキストラとして参加されたと聞きました。どのような経緯で映画のエキストラに出演することになったのですか?

 大学3年生で参加した東京国際映画祭インターンシップの時の上司から、インターン生みんなにエキストラ出演のお誘いをいただきました。なんとなく楽しそう、インターン生のみんなにまた会えるという軽い気持ちで参加しました。何度か撮影現場に参加させていただいたのですが、特に深夜の撮影が印象に残っています。21時集合、23時リハーサル開始、日付が変わってから本番撮影開始というスケジュールにまず驚きました。連日の撮影かつハードなスケジュールにも関わらず、みなさんがこだわりを持って働いていたのが特に印象に残っています。助監督・ADの方がエキストラを統率して走り回って撮影準備をしている姿や、監督とキャストの方が演技について話し合いを重ねる姿がとてもかっこよかったです。


インターンシップの実習記録


―実際に映画制作の現場を体験することは貴重な経験ですね。その経験から大学院で映画制作を学ぶことを決めたのですか?

いえいえまだ就職活動を続けていました。映像業界に進みたいのか大学院に進学したいのかなど進路について決めかねていて、映画祭の事務局の方にたくさんお話を伺いましたし、私の話も聞いていただきました。その方のキャリアの経緯を伺ったり、映画業界の現在について教えていただいたり、個人的にインターンシップをご紹介いただいたりしました。また、女性が映画業界で働く大変さも聞かせていただきいろいろ考えさせられました。

 

―山下さんは卒業論文のテーマにフランス映画の「最高の花婿」を選んで論じられましたが、その翻訳者や監督・キャストとも交流がもてたと伺いましたが、どのようにしてつながったのですか? 

それも本当にラッキーとしか言えないのですが、科目履修生として英和の大学院で学んでいた時に授業でフランス映画の「最高の花婿」について卒論で取り上げたいが、フランス語の力が足りないので脚本分析などに不安があると話したのです。それを聞いた院生のひとりが、友人に映画の翻訳をしている人がいる。何かアドバイスをくれるかもしれないので、良かったら紹介してあげると言ってくださったのです。そしてそのご友人が「最高の花婿」を翻訳した横井和子さんをご存じで、連絡先を教えてくださいました。その後、横井さんにメールで連絡を取り、卒業論文で翻訳された映画を取り上げていることをお話しし、翻訳の裏話やフランス語と日本語の差異などについて教えていただきました。実際に翻訳した人とのやり取りで、卒業論文の執筆に貴重な情報をいただきました。

監督・キャストの方々には、インスタグラムで連絡を取りました。メッセージを送り、アンケートにお答えいただくことができました。卒論の締切が迫り、行き詰まっている時に縋るような想いでメッセージを送ったので返信が来た時はとても嬉しかったです。メッセージとはいえ、英語でのコミュニケーションだったので難しいところもありましたが、監督、キャストの方々の返信を受けて、卒論の方向性を少し変えたので、文献だけに頼るのではなく、生の声を聞けたことは貴重な情報となりました。

日本で映画「最高の花婿」で卒論を書いている大学生がいるということをみなさんとても喜んでくださり、励ましの言葉を送ってくださったことは、卒論のラストスパートを書き切るモチベーションになりました。

 

―最終的には東京藝術大学の大学院を受験されますが、どのような経緯で藝大の映像研究科を選択したのでしょうか?

 「大学院 映画」で検索していちばん上に出てきたことが最初のきっかけです。藝大のホームページで東京国際映画祭のプログラミングディレクターだった市山尚三さんが2024年度から新たに教授として着任されると知り運命を感じました。市山さんは英和のキャンパスにもお話しに来てくださいましたし、映画祭期間中は頻繁にお見かけしていました。海外から映画祭に来ていた監督やプロデューサー・キャストの方々が市山さんをめがけて来ているという印象があったので、藝大に進学したら映画×海外という私の興味関心ど真ん中で勉強できるのではと思い出願しました。

 

―さまざまな偶然とご縁が山下さんを藝大受験に導いたようですね。でも社会科学系の大学から藝術系への転身は大変だったのではないですか? 

大学院の記述試験では自分が卒論で取り扱った領域のことや、映画祭インターンシップの経験から答えられる問題が出たので何の根拠もありませんでしたが、これはいける!と思えました(笑)。そんな幸運もあり、その後の口述試験にも自信を持って臨むことができました。他の受験生は映画の自主製作の経験があったり、大学で演技を学んでいたりする方たちで、経験の部分では太刀打ちできないと思いましたが、とにかく物おじせず面接ができたのはラッキーでした。 

また、大学院の入試は就職活動と似ている部分があったので、就活の時、たくさん相談に乗っていただいたキャリアセンターの職員の方々や先輩方のご指導のおかげで合格できたと思っています。またここまで支えてくださった先生、先輩方や私の合格を手放しに喜んでくれる友達のおかげで、今は4月からの生活が楽しみです。

 

―最後に、将来のヴィジョンについて教えてください。

 大学で学んだことで印象に残っているのは、BLM問題、ロヒンギャ問題などの人種問題です。机上の勉強では、世界にはびこる不条理にもどかしい思いをしました。一方で留学生との交流を通じて、生まれた国や文化が違っても仲良くなれることを体験しました。

 将来は映画を通して自分より若い世代にときめきを与えられる存在になりたいです。自分が高校時代に観ていた映画は、きっと今上映すると炎上してしまう要素が含まれています。しかし私がそういった映画に励まされてきたことも事実なので、どうしたら今の時代にマッチして、世界中の若い世代が将来に希望をもてるような映画を作ることができるのか、大学時代に学んだ国際感覚をさらに研ぎ澄ませながら模索していきたいです。

 

ゼミ担当 町田幸彦先生からのコメント

山下琴音さんは部活でも放送研究会副部長として後輩の指導をきめ細かにやっていました。人一倍世話好きでものおじしない性格が東京国際映画祭でインターンシップの活動にも発揮されたようです。とても楽しそうだった。

 その延長線上に卒論テーマの発案もあったが、映画作品を取り上げるうえで二つの条件を私は伝えました。映画の脚本(フランス語)を入手して原文を入念に読む、次に日本語字幕と比較して問題箇所をすべて論文で指摘する。結構大変な作業だったはずですが、貫徹できました。

 本人の言葉を借りれば、進路については「紆余曲折があった」。試行錯誤を繰り返し、なにかをつかみ取った大学4年間だったと思います。


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