【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】フィリピン大統領選挙:マルコス氏圧勝 

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同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。



フィリピン大統領選挙:マルコス氏圧勝

 清水文枝・東洋英和女学院大学非常勤講師




                    © JAM STA ROSA / AFP




2022年5月9日にフィリピン大統領選挙が行われ、フェルディナンド・マルコス元上院議員が現職の副大統領レニー・ロブレド氏に大差をつけて圧勝した。6月30日に第17代フィリピン大統領に就任する。

マルコス氏はかつて独裁政権を敷いた故マルコス元大統領の長男で、地元の北イロコス州知事と上院議員を務めた。フィリピンの平均年齢は25歳前後と若く、有権者の多くはマルコス氏の父親が大統領だった時代を知らない世代である。1986年までの約20年間、独裁政権を敷き、「独裁者」として国を追われた父親をマルコス氏は「フィリピンを近代化した」と称賛し、選挙戦ではSNSを積極的に活用して若年層の支持を獲得した。

マルコス氏は副大統領選で勝利したドゥテルテ大統領の娘であるサラ・ドゥテルテ氏と連携し、ドゥテルテ政権の経済成長重視の政策を継承する構えをみせている。ドゥテルテ大統領が行ってきたインフラ整備を継続し、原子力発電所の稼働にも意欲を示す。かつて父親の時代にルソン島に建設された未稼働の原発も稼働の候補に挙げている。こうしたインフラ整備の重要性を強調するも、マルコス氏は選挙戦で具体的な政策の多くを明らかにしてこなかった。

マルコス氏の外交政策もみえていない。具体的にはアメリカと中国との関係である。バイデン米大統領は、大統領選でマルコス氏の勝利が判明すると電話会談を行い、同盟関係の強化を強調した。バイデン氏が早期にマルコス氏と同盟強化を確認した背景には、対中融和姿勢をうかがわせるマルコス氏をアメリカ側に引き寄せたいという思惑がある。フィリピンはかつてアメリカの統治下にあり、現在でも「訪問軍地位協定」(VFA)によってフィリピン国内における米軍の駐留・活動の維持を認めている。

フィリピンは南シナ海の領有権問題をめぐり中国と対立する。2016年に国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所は南シナ海での中国の領有権の主張を否定する裁定を下したが、中国はこれを無視して南シナ海での実効支配を強めている。しかし、フィリピンにとって中国は最大の輸出国であることを理由にドゥテルテ政権は経済関係を重視して中国に対して融和的な姿勢を貫いてきた。 大統領就任を目前にして、マルコス氏は南シナ海問題に関して中国に強硬な姿勢を示すようになり、ドゥテルテ政権の対中融和路線を修正するかどうかが注目されている。


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