【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】2022年ノーベル経済学賞―金融危機下の銀行の重要な役割

東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。

同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。


2022年ノーベル経済学賞―金融危機下の銀行の重要な役割


袁 媛 (国際社会学部 准教授)


出典 © Andrea Renault/AFP


今年のノーベル経済学賞には、米FRB(連邦準備制度理事会)の元議長ベン・バーナンキ氏、シカゴ大学教授のダグラス・ダイヤモンド氏、ワシントン大学教授フィリップ・ディビッグ氏の三名が、銀行の重要性、経済危機と銀行の破綻との関係を明らかにした功績で選ばれた。

バーナンキ氏の研究業績で最も評価されたのは、1930年代の世界恐慌に関する研究である。彼は史料や統計データなどを用いて、銀行危機が恐慌を深刻化させたことを発見した。例えば、A銀行が企業aの工場建設にお金を貸し出しているとする。不況時のある日、A銀行が破綻するかもしれないと我々預金者が予想すると、我々は一斉にA銀行の預金を引き出そうとする。するとA銀行は預金に支払う資金を準備するため、企業aの工場建設への貸出を中断させなければならなくなるかもしれない。企業aが予定している工場建設ができなければ、経営を改善できない。しかも、A銀行は企業aだけではなく、様々な企業に融資している。経済全体にお金が回らなくなり、不況がさらに悪化してしまう。バーナンキ氏はFRB議長の時代(2006~2014年)、2008年の世界金融危機の発生に直面した。大手金融機関に公的資金を投入する緊急対応策を行い、危機の広がりを食い止めたことも評価されている。

ダグラス・ダイヤモンド氏とフィリップ・ディビッグ氏の功績は主に銀行の重要性と脆弱性について理論モデルを構築したことにある。

彼らは、銀行が我々から短期預金を受け入れて企業の設備投資などの長期融資を行うことは重要な金融仲介の役割を果たす一方、流動性リスクも抱える点を指摘している。流動性リスクとは、必要資金を確保できず、資金繰りが難しくなることで発生するリスクである。例えば、我々が引き出したい資金をA銀行がすぐに用意できない場合、市場ではB銀行も資金を用意できないかもしれないという憶測が出回り、恐怖が恐怖を呼んでしまう。結果として健全なB銀行も破綻リスクにさらされ、貸出先の企業bや、他銀行の融資先も資金繰りに困ることになって、経済全体に悪影響を与える。また、両氏は政府による預金保険や中央銀行の「最後の貸し手」機能の重要性を主張しており、彼らの研究成果は現代の銀行規制の理論的基礎になっている。

 2008年の金融危機や新型コロナ危機に際して、市場に潤沢な資金の供給によって、経済への打撃を和らげることができたことは、三氏の理論の実践でもあった。しかし、その後のインフレ対策は大きな課題として残されている。

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