【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】「気候正義」のための国際協力とは?

 東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。

同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。


「気候正義」のための国際協力とは?

桜井 愛子 (国際社会学部 教授)



© HUSNAIN ALI / AFP

  2022年11月 20日、エジプトで開催された国連気候変動枠組条約第27 回締約国会議(COP27)は、気候変動による「損失と損害」(Loss and Damage)を支援するため途上国を対象に新たな基金を創設することを含む成果文書を採択した。
  気候変動への対策には、大きく分けて二つある。二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を抑制し、気候変動自体を小さく抑えようとする「緩和」(Mitigation)と、すでに大気中に放出された温室効果ガスによって引き起こされる気候変動の負の影響に備えることで被害を軽減しようとする「適応」(Adaptation)、である。COP27ではこれらに加えて、気候変動により引き起こされた台風や暴風雨などの極端な気象現象や長期間かけて進行する砂漠化、海面上昇等によって引き起こされる自然災害による「損失と損害」までをも、気候変動対策に含んでいこうと合意したのである。
  グテーレス国連事務総長が「正義に向けた重要な一歩を踏み出した」と述べたように、基金の設立合意は、気候変動の原因を生み出した先進国とそれによる被害をより多く受ける途上国との間の不公平を是正しようとする、気候正義(Climate Justice)の実現に向けた試みである。具体的な運用は次のCOP28で検討されるが、今回の合意は国際協力のあり方に少なからぬ影響を与えると考えられる。
  大規模な自然災害が発生した場合、被災国からの要請に対して国連を中心とした国際緊急人道支援が展開される。人道支援は「善意」で行われるが、今回の基金の設立合意はこうした途上国における大規模気象災害に対して、先進国は自らの行為が引き起こした「損失と損害」を「補償」するよう求められることになる。
  その背景には大規模自然災害や紛争等の人道危機が多発する中、「善意」だけでは十分な資金を集めることができない現実もある。例えば雨季の降雨と熱波による氷河の融解により国土の3分の1が浸水した2022年のパキスタン洪水に対して、国連は4億7230万米ドルの支援が必要としているが、11月現在、必要とされる額の37%の資金しか得られていない。パキスタンでは、現在も南部を中心に長く浸水が続き二次被害として感染症が蔓延し、子どもや高齢者、妊婦等の健康が脅かされている。
  パキスタンのように気候変動により深刻な被害を受けた国が、災害から速やかな復旧とより良い復興を実現し、気候変動に適応できるレジリエントな社会を実現するための道のりははるか遠い。先進国である日本が、自ら気候変動への緩和や適応を図るだけでなく、「気候正義」のための国際協力をいかに推進していくのか、世界が注目している。
  大規模気象災害に対して、先進国は自らの行為が引き起こした「損失と損害」を「補償」するよう求められることになる。


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国際関係研究所のHPからは、Toyo Eiwa The World Commentaryのバックナンバーを読むことができます。

皆さんがニュースで見聞きする国際問題について、詳しく知るためのとてもよい機会になりますよ。

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