【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】アメリカの分断は続く:中間選挙の結果/人事と党規約からみる第20回中国共産党大会

東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。

同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

この度新しいコメンタリーが発出されました!

今回は二本立てです。ぜひご一読くださいね。


 アメリカの分断は続く:中間選挙の結果

河野 毅 (国際社会学部 教授)










コロラド州での投票(118日)

©Jason Connolly / AFP



  アメリカ社会の分断は継続する、というのが今回の中間選挙の結果だろう。トランプ前大統領の影響力の衰退が見えた向きもあるが、バイデン大統領も相変わらず不人気である。上院を引き続き制し下院でも一桁の敗北で乗り切った民主党の善戦は、2つの過激主義に対する有権者の「ノー」があったからだ。
  投票結果で明らかになったのは、民主・共和が拮抗する激戦選挙区では、人工中絶の違法化が差し迫った州と2020年大統領選でのトランプ氏の敗北を拒否する候補が出馬した選挙区では民主党が勝利し(例:カンザス州、ミシガン州、ペンシルバニア州、アリゾナ州)、その反対に、人工中絶は州法で既に合法であり且つトランプ氏の2020年大統領選の敗北を認めた共和党候補の選挙区では共和党が勝利している(例:ニューヨーク州、オハイオ州)。
  全国(連邦)で人工中絶が合法だった状況を連邦最高裁が覆し、中絶の是非を各州議会の判断に任せたのは今年6月末だった。これを受けて共和党の保守派候補は州法で人工中絶を違法化するべく中間選挙で訴えたが、有権者はこれを過激と見て阻止した。さらに、2020年大統領選でのトランプ氏の敗北を拒否する共和党候補のうち約7割が落選している(11/10時点のワシントンポスト紙、BBCの集計)。重要なのは将来で、過去ではないという共和党有権者のメッセージなのだろう。
  与党民主党が下院で下野した結果バイデン大統領の政策遂行のハードルが上がったことになるが、民主党は上院をかろうじて再び制したため最高裁含め連邦判事や検事の任命など司法の要職に大統領の判断が反映できる体制が整った。
  次は2024年11月5日の大統領選である。バイデン大統領は来年早々に正式に出馬の是非を発表するという。トランプ氏は3度目の出馬を発表したばかりである。ただ、2024年にバイデン大統領は82歳、トランプ氏は78歳になる。両党にはもっと若い大統領候補はいないのか、というのが真っ当な疑問であるが見つからない。若者層とヒスパニック層を取り込み、白人の労働者階級にアピールできる候補は誰なのだろうか?
  次期大統領を目指し、民主・共和両党とも2023年を最大限利用してバイデン大統領とトランプ前大統領に対する批判を強めるだろう。そして、アメリカの分断は継続するのである。

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人事と党規約からみる第20回中国共産党大会

望月敏弘(国際社会学部 教授)


                                            ©︎ NOEL CELIS / AFP

  中国政治の大きな特色は共産党による一党支配にある。2022年10月16日から22日までの7日間、最重要の政治イベントである第20回共産党大会が首都・北京で5年ぶりに開催された。大会数日前に北京中心部の高架橋で習近平政権を批判する横断幕が掲げられたり、大会の閉幕式では胡錦涛前総書記が途中退場するなど話題も多く、海外メディアは先を競って報道した。
  大会初日に行われた習近平総書記の政治報告自体は、内容的には強国化や祖国統一の道を進む方針を示すなど、新味に乏しいものであった。一方で、9671万人の党員を代表する約2300人の大会参加者を前に、1時間45分という長時間のスピーチを自信満々に行った習総書記の姿は印象深く人々の目に映ったと感じる。
 今回の党大会および習政権三期目の発足にあたり、筆者が注目すべきポイントと考えるのは、党上層部人事および党規約改正にかんする二点である。前者からは習氏への権力集中の度合い、後者からは習氏の権威化の程度が分かる。なお、メディアによる予測を裏切る事態の展開も多く、今回、中国理解の難しさを実感させられた。
 まず人事面では、党大会直後の会議で、最高指導部と呼ばれる政治局常務委員(7名)、その下の政治局委員(24名)が選出された。新たに最高指導部入りした4名の内、かつて習氏の直属部下であった者は3名で、明確な側近人事といえる。また、以前は習氏のライバルであり、最高指導部に留まるとみられていた李克強首相が退任となった。さらに、女性の政治局委員が20年ぶりに不在となり、1970年代生まれを中心とする第七世代と呼ばれる若手も中央委員(党序列の上位205名)に抜擢されなかった。
 次に党規約の改正である。党規約は党の最高規則であり、一党支配の中国では、国の憲法以上の重みをもつといわれる。今回、習氏が重視する格差是正を目指す「共同富裕」は党規約に盛り込まれた。一方、明記されると報道されていた「二つの確立」(習氏の党の核心としての地位、政治思想の指導的地位を確固たるものにする)は見送られた。筆者も、党大会で採択された党規約全文が掲載された10月27日付『人民日報』の原文を確認した。背景として、党規約第二章第十条⑹に「党はいかなる形の個人崇拝も禁止する」との文言があり、習氏の権威を過度に高める表現がこれに抵触した可能性もある。
 習氏の権力集中と集団指導体制の形骸化は並行して進んだ。今後、習氏の権威化が強まれば、党規約の文言にもその影響は及ぶのだろうか。

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国際関係研究所のHPからは、Toyo Eiwa The World Commentaryのバックナンバーを読むことができます。

皆さんがニュースで見聞きする国際問題について、詳しく知るためのとてもよい機会になりますよ。

国際関係研究所HP:https://www.gendaishikenkyu.net/the-world-commentary/

是非、チェックしてみてください!


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