【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】新しい国際協力のかたち

 東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。

同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。


新しい国際協力のかたち

吉川 健治(国際社会学部 教授) 



g7+本部事務局で、左がシャナナ元大統領


20233月に東ティモール現地調査で、同国元大統領、シャナナ・グスマン氏を訪ねた。インドネシア支配下からの脱却、独立闘争のリーダーとして2002年にインドネシアからの独立を果たすと、選挙を経て大統領に就任した。退任後も首相を務めるなど、独立リーダーとして多くの国民から慕われている。人口120万人あまり、国土が長野県程の小国を治めてきた一人である。現在彼は首都ディリに本部を置くg7+事務局の責任者として、多忙な日々を送っている。駐東ティモール日本大使もなかなかアポが取れないと嘆くほどだ。g7+とは、紛争や内戦を経験した国々が、紛争や内戦状態にある国と対話し、問題をよく知る当事者同士が和解について考え、開発のあり方を考える場とする国家間組織である。2010年に設立され、現在の参加国は20カ国になり、地域的にもアフリカ、アジア、中東、カリビアンと世界に広がり、国連のオブザーバー資格も取得している。

 これまでにも脆弱国家へ支援する国家間協力はあった。しかしながら、とりわけ大国が絡む紛争や内戦への介入は、規範となる政治体制・経済制度を期待される。せっかちな民主制度の導入や市場経済への導入、それで民主主義が定着したか、経済が成長したかといえば、答えは明白である。g7+の活動姿勢で特筆すべきは「特定の開発モデルを促進しない」と表明している点である。紛争当事国が開発発展に他国の干渉を受けないそれぞれ独自の発展に向けて経験と知識をシェアする「プラットフォーム」の提供。これまでにない新しい国家間協力といえよう。

 東南アジア諸国連合(ASEAN )への加盟を控える東ティモールにとってもこれは大きな課題だ。90年代にASEANに加盟した国々は、市場開放外資導入、豊富で低賃金な労働力提供など典型的な市場経済モデルの政策をとった。経済成長はしたが、経済の他国依存は深まっている。さらに貧富の格差も招いた。

 新たな加盟国となる東ティモールも投資国・企業がないと成り立たない状態は避けたい。豊富な天然資源を持つ東ティモールがその資源に関心を持つ工業国の草刈り場になる可能性も否定できない。それを避けるには「人材育成が大きな課題」だ、とグスマン氏は繰り返した。国民が共有できる新たな路線の構築には各分野の知識、技術が必要。日本での人材育成協力にも期待しているのであろう。大学人に時間を割いてくれた理由の一つかもしれない。g7+が模索する独自の開発実現できるか。試練は続く。

  

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国際関係研究所のHPからは、Toyo Eiwa The World Commentaryのバックナンバーを読むことができます。

皆さんがニュースで見聞きする国際問題について、詳しく知るためのとてもよい機会になりますよ。

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