【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】岐路に立つ韓国尹錫悦政権

  東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。


岐路に立つ韓国尹錫悦政権

冨樫 あゆみ(国際社会学部 准教授) 



DREW ANGERER / GETTY IMAGES NORTH AMERICA / GETTY IMAGES VIA AFP




2022年5月の発足から尹錫悦(ユンソンヨル)政権の外交安全保障政策の中心は対日・対米関係にあった。尹大統領は就任前から国会議員や研究者を含む代表団を日本へ送るなど、「戦後最悪」の日韓関係の改善に注力してきた。この1年で日韓関係のみならず、日米韓関係も発展してきた。

その主たる目的は日米韓安全保障協力の強化である。2022年11月の日韓首脳会談と日米韓首脳会談では「包摂的で、強靱で、安全な、自由で開かれたインド太平洋の追求」の実現に向けて安全保障協力を含む様々な分野での日米韓での連携が確認され、これは「プノンペン宣言」として公式化された。

尹政権が日韓、日米韓関係の強化を掲げる理由の一つに、北朝鮮の核問題がある。難航する朝鮮半島の非核化を受けて、韓国では核武装が検討され、米国の拡大抑止の強化が叫ばれた。2023年4月の米韓首脳会談で発表された「ワシントン宣言」には、米国の韓国に対する拡大抑止の強化が明文化され、米国が核兵器を使用する際に韓国が「米韓核協議グループ」に参加することが明記された。

米韓首脳会談で尹大統領は、北朝鮮の核問題に直面する北東アジアで「圧倒的な力の優位を通じた平和」を実現することを宣言し、緊張する北東アジア情勢に対する韓国の対応策が緊張緩和ではなく、脅威への対抗強化であることを鮮明にした。

一方で、国内的には尹政権は危機的状況にある。尹錫悦政権は、就任当初から低い支持率が続き、韓国大統領としては異例の支持率30%台を推移している。その原因の一端は尹政権の外交政策にある。日本が日韓関係改善のための「宿題」として韓国に求め、尹政権が「提出」した徴用工問題の解決案は、被告となっている日本企業からの謝罪を含むものではなく、韓国が全面的に要求を取り下げる「屈辱外交」であったとの評価が大勢であった。

韓国の国家としての威信を大きく傷つける「屈辱外交」との批判は、尹政権の対米外交に対しても向けられた。訪米前に明るみになった米国が韓国大統領府を盗聴していた事件については、尹政権は「悪意の無い盗聴」として外交問題とすることを避けた。これに対し韓国社会は尹政権の対応を「主権の喪失」として強く非難した。韓国では、政権の専権事項でもある外交政策へ国民から批判が集まることは異例である。   

日韓、日米韓協力を拡大し外交攻勢にでる尹政権の国内基盤は脆い。韓国は来年4月に総選挙を控えている。その脆さが今度どのような影響をもたらすのか。尹政権の先行きは不透明だ。

  

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皆さんがニュースで見聞きする国際問題について、詳しく知るためのとてもよい機会になりますよ。

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