【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】AIと上手く付き合う社会へ

東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。

同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。


AIと上手く付き合う社会へ

河野 毅 (国際社会学部 教授) 


   ChatGPTのロゴ      ©Olivier Douliery/AFP

 

AIプログラムChatGPT3と4をプライバシーの侵害という理由で各国政府が規制する動きが報道されている。一方、そのChatGPTの有用性についての報道も多い。条件を与えるとAI言語パイソンを使って数秒でゲームを書いたり、製薬目的でタンパク質の構造を提案したり、これまでプログラマーが骨を折ってきた仕事はAIが数秒で仕上げる。

 AIの可能性を恐れる言説は多い。先述のプライバシーの侵害問題は法令と技術革新で対策が可能であるが、AIが人類を滅亡させるという極端な噂は一神教の終末論に合わせて議論が沸騰している。

 重要なのは、AIと上手く付き合う社会を作るために何に留意すべきかだ。ここでは留意するべき3点を提案したい。第1に、新技術が導入されるときに起こる権力闘争だ。新技術AIの導入が既得権益を脅かすと権力者はあらゆる手を使って新技術を独占しようとする。AIの普及を規制したり、アルゴリズムを操作し自分に有益な情報を流布したり、偽情報で大衆を煽動したり、政敵を監視したり、武器を作ったり、である。

 第2に、上記権力闘争が国家間の場合は、その開発競争だ。AI開発と社会への導入で先行する米国がノロノロしていると中国にあっという間に追い抜かれるだろう。EUと日本は傍観者だろうか。問題は、どの企業がAI技術をコントロールするかであるが、知財保護や補助金など技術の発展に必要なプラットフォームの提供者は国家である。

 第3に、AIはヒトと双方向性をもつ技術で、それも見えないところでヒトの知的能力を凌駕して成長していく点だ。この「双方向性」は、これまでの新技術とは全く異なる。例えば、核技術は爆弾に使われたり発電に使われたりするがヒトとの双方向性はない。だからヒトは正誤の価値判断に基づいて各技術の目的を判断してきたが、双方向性のあるAIが働きかけてヒトの正誤の判断を左右するだろう。

 技術は常に使う目的の正誤の判断を伴う。その正誤判断は社会の権力関係で決まり、その関係は国家の種類で変わる。民主国家は透明性と民主制を重視するが独裁国家は権力者が勝手に正誤を判断する。そして正誤の判断基準は権威からくるので、ヒトが神や家族や国家ではなく、AIを権威と信じ、影響され、行動する社会での正誤の判断はAIが担うことになる。

 AIと上手く付き合う社会を作るために、我々ヒト全員がAIを学び、その使う目的の正誤の判断をヒトがする社会を作るべきだ。AI開発とルール作りはいたちごっこであるので、我々はAIに慣れそのルール作りの議論に活発に参加するべきだ。社会の無知は権力者を利するだけである。


 ***

国際関係研究所のHPからは、Toyo Eiwa The World Commentaryのバックナンバーを読むことができます。

皆さんがニュースで見聞きする国際問題について、詳しく知るためのとてもよい機会になりますよ。

国際関係研究所HP:https://www.gendaishikenkyu.net/the-world-commentary/

是非、チェックしてみてください

コメント