【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】在外邦人保護と武器の使用

 東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

 この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。


在外邦人保護と武器の使用

田中 極子(国際社会学部 准教授) 


フランス軍による自国民保護 
ADJ LAURE-ANNE MAUCORPS EP DERRI / ETAT MAJOR DES ARMÉES / AFP


アフリカ北東部のスーダンで、国軍とその傘下の「迅速支援部隊」(RSF)による戦闘が勃発し、日本政府は自衛隊機を派遣し、4月25日に邦人及びその家族58人を国外退避した。武力の行使を放棄した憲法9条との関係で、この問題の論点を整理する。憲法9条は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定めている。邦人保護において問題となるのは、どこまで武器の使用が許容されるのか、という点である。


1999年に自衛隊法が改正され、緊急事態で自衛隊員やその保護下の邦人等の生命または身体を防護するための必要最小限の武器の使用が認められた。これにより、救出対象者が自衛隊員の保護下にある限りにおいては、航空機や艦船まで誘導する経路において、救助対象者の生命を防護する目的で自衛隊員が最小限度の武器を使用することは憲法上許容されると解釈されることとなった。これを「自己保存型」の武器使用権限という。


その後、2014年の平和安全法制の整備に伴い、従来の「自己保存型」の武器使用権限に加え、在外邦人の救出活動や妨害排除のための武器使用を認める「任務遂行型」の武器使用権限の検討を開始することとなったが、現在のところ任務遂行型の武器使用権限は付与されていない。


そのため、今般のスーダンのケースでは、自衛隊員が、救助要請者である邦人のもとへ駆けつけることはかなわず、邦人45人は自衛隊機の待機している東部ポートスーダンへ陸路で移動し、ほかの13人は、フランス政府や国際赤十字の協力を受けて自衛隊機まで避難している。現場で他国や国際機関と調整して、邦人救助活動を実現できたことは高く評価されるべきだ。その一方で、救助要請者が自力で、または他国等の支援を受けて、自衛隊機の待機場所に到達し、自衛隊の保護下に入る状況にならなければ、自衛隊によって保護することができない状況は、改めて検討する必要があるだろう。


2014年の平和安全法制の整備時に、自国民救助に際しての武器使用は、領域国の同意がある場合には『武力の行使』には該当せず、憲法の制約はないと解釈すべきことが提言されている。国際法上も、在外自国民の保護・救出は、領域国の同意がある場合には許容されると解釈される。日本は、こうした状況における邦人保護の問題について、武器の使用と憲法解釈をしっかりと国会で議論する必要がある。


 ***

国際関係研究所のHPからは、Toyo Eiwa The World Commentaryのバックナンバーを読むことができます。皆さんがニュースで見聞きする国際問題について、詳しく知るためのとてもよい機会になりますよ。

国際関係研究所HP:https://www.gendaishikenkyu.net/the-world-commentary/

是非、チェックしてみてください





コメント