【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】【G7シリーズ】ゼレンスキー大統領とG20

  東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

 この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。


【G7シリーズ】ゼレンスキー大統領とG20

河野 毅(国際社会学部 教授) 


©Ministry of Foreign Affairs of Japan/ AFP


フランス政府手配の航空機から広島に降り立った時からウクライナのゼレンスキー大統領は、お馴染みのカーキ色軍服で、G7首脳と招待国首脳との会談をこなし、G7諸国からの軍民支援を取り付けた。原爆犠牲者の御霊へ献花し、記者会見では、原爆資料館の展示「人影の石」を引用しつつ、平和を訴えた。

ただ、この平和の訴えの裏にはG20への働きかけというゼレンスキー大統領の重要なアジェンダがあり、その結果今年のG20の議長国インドのモディ首相との面談が実現した。G20G7に加え成長する中進国を含めた19カ国+EUが加盟し、加盟国の経済規模は世界のGDPの約85%を占める。

インドは、ロシアによるウクライナ侵略を非難した国連総会決議では2度棄権し、中立的だ。Indian Express紙によると、ゼレンスキー大統領との会談で、モディ首相はこれまで繰り返してきたウクライナへの人道支援の重要性を述べたのみで、ゼレンスキー大統領がロシアとインドの関係に楔を打つことはできなかったようだ。

ゼレンスキー大統領の目標はG20の中でロシアを孤立させることだ。昨年のG20議長インドネシアのウィドド大統領はキーウを訪問し、G20首脳会談ではゼレンスキー大統領を招待している(同大統領はビデオで演説、一方プーチン大統領はラブロフ外相が代行出席)。今の争点は、インドのモディ首相がキーウを訪問するか、そして9月のG20サミットにウクライナを招待するかだ。来年の議長はロシアのウクライナ侵略を国連の場で非難したブラジルのルラ大統領であるが、広島では両者の「時間の都合で」首脳会談が実現しなかったという。

ここで見落とせないのは、インドネシア、インド、ブラジルの背後にはもう一つのG20の大国、中国がいる事だ。文言の差はあるが、中国含めこの3国は、クリミア半島含むウクライナ領土からのロシアの完全撤退を明示的に出さない「停戦」を呼びかけており、これはウクライナとG7にとっては受け入れられない内容だ。

G7の世界に占める経済規模はかつての7割から4割へ相対的に縮小する一方、G7の比較優位は世界軍事支出の39%を占める米を背景に、G7合計で50.6%に上る軍事支出とその高い技術力である。これを追うように第2の軍事大国中国は世界の軍事支出の13%を占め、ロシアは3.9%、ロシアの武器を買うインドは3.6%となり合計では20.5%となる。

 ウクライナ戦争はさらに激化し、同時に外交ではG20がその戦いの舞台だ。ウクライナ戦争の終わりが見えない中、世界の武装化と分裂したG20という現実を前に、広島発の平和の願いは霞んでいく。


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