【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】【G7シリーズ】核軍縮「広島ビジョン」

 東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

 この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。


【G7シリーズ】核軍縮「広島ビジョン」

田中 極子(国際社会学部 准教授) 

G7広島サミット ©FRANCK ROBICHON / POOL / AFP


5月19日から21日にかけて、先進7か国(G7)サミットが広島で開催された。初日の19日には、G7首脳が揃って広島市の平和記念資料館を訪問し、核軍縮に特化した成果文書として「広島ビジョン」を発出した。「広島ビジョン」の意義と課題を整理する。


「広島ビジョン」の最大の成果は、米国、英国、フランスの核兵器国3か国を含むG7が、初めて核軍縮に焦点をあてた成果文書に合意したことであろう。岸田総理が「歴史的な意義」と強調したように、G7の枠組みで「核兵器のない世界の実現に向けた」コミットメントが確認された意義は大きい。「広島ビジョン」では、77年間核兵器が使用されなかったという記録の重要性を強調し、核兵器のいかなる使用も、使用の威嚇も許されないことを再確認した。


また、核兵器に関する透明性を確保することの重要性を強調し、核兵器国に対しては効果的かつ責任ある透明性措置をとることを要求している。これは、核戦力の増強を加速している中国に対して、核戦力データの開示を求めるものであり、同時に日本政府が一貫して核兵器国に対して要請していることである。透明性の確保は核軍縮に向けた重要なステップであり、G7の文書に明記された意義は大きい。


その一方で、広島の被爆者や、核廃絶を進める市民団体である核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)などからは失望の声もあがっている。その最大の理由は、「広島ビジョン」が、核兵器の存在が防衛目的の役割を果たし、侵略を抑止し、戦争及び威圧を防止する核抑止効果を容認した書きぶりとなっているためである。


ロシアが核兵器による威嚇を行ったり、中国が核戦力を着実に増加しつつあり、また北朝鮮やイランの核開発疑惑が継続している中で、「全ての者にとっての安全が損なわれない形で」核兵器のない世界を追求するというアプローチが求められる現実がある。こうした現実において、G7首脳が揃って原爆資料館を訪問し、核兵器によりもたらされる惨状が改めて注目されたことの意義は大きく、核兵器の問題に焦点を当てた成果文書が発出されたことは評価されるべきだろう。


同時に、この文書が広島で合意されたという事実に対して、被爆者の失望も真摯に受け止める必要がある。「広島ビジョン」には、これまでいくつもの国際会議で合意された核兵器のもつ非人道性の問題や、核兵器禁止条約には一切の言及がなされなかった。被爆地として核軍縮の象徴的な役割を担ってきた広島で、核兵器の抑止効果をとおして核兵器の存在意義を容認する文書が発出されたことの影響も認識するべきだろう。


 ***

国際関係研究所のHPからは、Toyo Eiwa The World Commentaryのバックナンバーを読むことができます。皆さんがニュースで見聞きする国際問題について、詳しく知るためのとてもよい機会になりますよ。

国際関係研究所HP:https://www.gendaishikenkyu.net/the-world-commentary/

是非、チェックしてみてください




コメント