【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】【G7シリーズ】グローバルサウスは巨像か、虚像か?

 東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

 この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。


【G7シリーズ】グローバルサウスは巨像か、虚像か?

福田 保(国際社会学部 教授) 

©Takashi Aoyama/POOL/AFP


G7広島サミットの影の主役となったのは、昨今よく耳にするいわゆる「グローバルサウス」であった。招待国8カ国のうち、ブラジル、コモロ(アフリカ連合議長国)、クック諸島(太平洋諸島フォーラム議長国)、インド(G20議長国)、インドネシア(ASEAN議長国)、ベトナムはその一角を占める。

岸田文雄総理がこれら新興国・途上国首脳を招待した理由は、ロシアへの直接批判を避け、制裁にも消極的な立場をとり、G7諸国と一定の距離を置く彼らを取り込むためであった。このことは、岸田首相の「G7とグローバルサウスの橋渡し」を行うことが日本に求められる役割である旨の発言に明確に示される。サミットにおいてG7首脳は、長期化した戦争によって経済的苦境に立つグローバルサウスの国々のニーズに応えるため、食料安全保障、エネルギー、インフラ投資等への支援強化を表明した。しかし、これら国々のロシアや中国との関係も重視する従来の姿勢に終始変化は見られなかった。

ASEANの対外関係に関心を抱く筆者にとって、今般のG7はどこか見慣れた光景であった。上記グローバルサウスと呼ばれる国々の振る舞いは、「(大国間争いに巻き込まれぬよう)いずれの陣営にも与しない」と中立を宣言しながらも、米中日などの大国から巨額の援助を引き出し、それぞれと協力関係を深めるASEANASEAN諸国の姿と重なるのである。ブラジルのルラ大統領の「ウクライナとロシアの戦争のためにG7に来たわけではない」(『朝日新聞』)との発言には、ASEAN同様、実利を追求する外交姿勢が如実に表れている。

ASEANとグローバルサウスが同じだと述べているわけではない。後者は遥かに多様(したがって分裂含み)で、その実体は曖昧模糊としている。「グローバルサウス」に明確な定義はなく、アジア、アフリカ、中南米など主に南半球に位置する新興国・途上国を指す。20131月にインドが初開催した「グローバルサウスの声サミット」と題するオンライン国際会議には120カ国以上が参加したが、100を凌ぐ諸国が一枚岩となるのは容易ではない。一方、たとえその代表格と目されるブラジル、インド、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ(いずれもG20構成国)の取り込みに成功したと仮定しても、他のグローバルサウス諸国が一様に追随するとも思えない。

急速な経済成長を背景にその存在感を高めるグローバルサウスは、今後の国際秩序を左右する「スイング・ステート」としてのポテンシャルをもつ。その言葉から巨像たるイメージを彷彿させるが、実際はまだ輪郭がおぼろげな雑多な集合体である。彼らの声を真摯に聞きながら、同諸国が果たし得る役割を建設的に発展させ、等身大のグローバルサウスと協働する姿勢が日本政府に求められる。


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