【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】【G7シリーズ】「広島ビジョン」と韓国

 東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。


【G7シリーズ】「広島ビジョン」と韓国

冨樫 あゆみ(国際社会学部 准教授) 

「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」に祈りを捧げる尹大統領と岸田首相 ©Yuichi YAMAZAKI / POOL / AFP


 今回のG7サミットのテーマは「平和」であると同時に「核」でもあった。実はこのテーマは韓国にも深い関連がある。1950年に勃発した朝鮮戦争は未だ終戦をみず、国家の分断という悲劇的な状態は1953723日の停戦協定から今年で70年を迎える。そして、2023年朝鮮半島を取り巻く状態は深刻である。

(ムン)在寅(ジェイン)前政権の外交最優先事項であった朝鮮半島の非核化に向けた努力は、尹錫悦(ユンソンヨル)政権のもとでアメリカによる核抑止を強化する方針へと変更され、韓国と北朝鮮が1991年に採択した「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」により韓国から撤去された戦術核の再配備のみならず、核武装の必要性が国内で議論されるようになった。北朝鮮核問題の解決へ向けたバイデン政権の姿勢が揺らぐにつれて、そして北朝鮮の非核化が非現実的なものとなるにつれて、核抑止を求める国民の声も強くなっていった。20234月米韓首脳会談で採択された「ワシントン宣言」では米国による韓国への核抑止の強化が明文化されたが、これに対し韓国国内からは「韓国版NATO」、「韓国としては最大限の選択」と専門家からは肯定的な評価が相次いだ。

このような朝鮮半島の核問題をめぐる韓国の現在の状況が、核軍縮への決意を新たにした「広島ビジョン」と真逆にあることは言うまでもない。現に、韓国国内では「広島ビジョン」への評価も、そして関心も低かった。北朝鮮による核の脅威と米中対立を自国の安全保障に対する深刻な挑戦と捉える韓国にとって、核保有国による「広島ビジョン」は内実を伴わない宣言として映った。「広島ビジョン」に対する韓国の冷ややかな反応からは、非保有国の複雑な立場が垣間見える。G7による核軍縮への決意を理想論ではなく現実なものと受け止めるには、韓国が対峙している安全保障環境はあまりにも厳しい。

G7広島サミット最終日の521日、尹錫悦大統領は韓国の大統領として初めて「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」に献花した。祈りを捧げた尹大統領の心中を知る由もないが、2週間後殉国者と戦没者を追悼する顕忠日(66日)式典において、米韓が「核を基盤とする同盟関係へ格上げされた」と宣言した。

わずか5年前の2018年、板門店宣言と史上初の米朝首脳会談共同宣言において朝鮮半島の非核化と朝鮮半島の平和体制が検討されていたことが、筆者には遠い昔のように思える。


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