【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】【G7シリーズ】アメリカによるクラスター弾供与と西側諸国の支援

  東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

 この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。


【G7シリーズ】

アメリカによるクラスター弾供与と西側諸国の支援

今野 茂充(国際社会学部 教授) 

ジェイク・サリバン米国・国家安全保障担当大統領補佐官

©︎Drew Angerer / Getty Images via AFP


アメリカ政府は77日、砲弾不足に苦しむウクライナにクラスター弾を供与することを発表した。クラスター弾とは、発射された後、多数の小型弾薬を広範囲に放出する砲弾である。地上の広い範囲を「面」で制圧するため、世界各地の戦場で用いられてきたが、不発弾が残りやすく、戦闘終結後も民間人を殺傷する危険性が高い。そのため人道面で問題視され、2008年にはクラスター弾の使用・生産・貯蔵・移譲等を禁止するオスロ条約が採択された。

今回の発表の後、同条約締結国のイギリス、ドイツ等の国は、クラスター弾をウクライナに供与しない自国の立場を表明している。なお、日本も同条約の締結国であるが、ロシア、ウクライナ、アメリカは(そして中国も)、この条約には参加していない。

クラスター弾は占領地域で堅い防御態勢をとるロシア軍を効率的に攻撃するために有効な兵器であるが、戦闘終結後もウクライナの国土には負の影響が残る。アメリカが提供するクラスター弾の不発率は2.5%以下と低く、すでにロシア軍もウクライナ軍も不発率の高いクラスター弾を使用しているため、実際のところ、今回の供与で戦後の被害リスクが著しく増大するわけではないとされている。しかしながら、非人道的兵器というイメージの問題もあり、西側諸国でも今回の供与決定への批判は少なくない。

ウクライナ軍の反転攻勢が順調とはいえず、弾薬の供給状況が厳しくなるなか、国内外の批判を覚悟の上でバイデン政権が苦渋の決断をした形となる。とはいえ、道義性以外にも問題は存在する。一つは戦局への影響である。供与されるクラスター弾で、ウクライナ軍がロシア軍をさらに消耗させることはできるかもしれないが、航空優勢を確保できない状況で困難な攻勢作戦をおこなう構図に変化は生じない。20222月以降、アメリカだけでも413億ドル以上におよぶ軍事支援をウクライナに約束してきたが、クラスター弾も供与しなければウクライナ軍が戦えない状況だとすると、先行きは明るくない。

もう一つは、今回のような「立場が分かれる」措置も含め、西側諸国が中長期的にウクライナ支援を継続できるのかという問題がある。核戦争の恐れもあり、西側諸国の直接軍事介入や、ウクライナ軍によるロシア本土攻撃への支援は現実的な選択肢ではない。仮に停戦や休戦が成立しても、ロシアには一定の力が残り、西側諸国の支援がなければ、ウクライナの安全は脅かされることになる。状況の安定までに数十年かかる可能性も否定できないなか、ウクライナの平和の回復・維持に西側諸国はどこまで責任をもって関わる覚悟があるのか。各国の負担にも限界があり、話は単純ではない。

***

国際関係研究所のHPからは、Toyo Eiwa The World Commentaryのバックナンバーを読むことができます。皆さんがニュースで見聞きする国際問題について、詳しく知るためのとてもよい機会になりますよ。

国際関係研究所HP:https://www.gendaishikenkyu.net/the-world-commentary/

是非、チェックしてみてください

コメント