【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】アメリカ大統領選挙:2人の怒る老人の対決

 東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

 この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。


アメリカ大統領選挙:2人の怒る老人の対決

河野 毅(国際社会学部 教授)

TIMOTHY A. CLARY, ANDREW CABALLERO-REYNOLDS / AFP


来る115日のアメリカ大統領選挙はトランプ氏とバイデン氏の2度目の対決となるだろう。このまま行けば、トランプ氏は7月の共和党大会で、そしてバイデン氏は8月の民主党大会で大統領候補指名を獲得する。そこから投票日までは党員以外の有権者を獲得する戦いになる。ギャロップ社の世論調査では、民主・共和いずれにもコミットしないIndependentと呼ばれる有権者は2004年には総数の31%だったが2023年には49%に増加しているという。


ただ、ニューヨーク・タイムズ紙の2月の世論調査によると、バイデン氏もトランプ氏も人気がない。バイデン氏を候補として「好ましくない(unfavorable)」と答えた有権者は59%、トランプ氏は54%である。同紙によると、2人の対決は優劣つけ難い(dead heat)が、問題は国民が興ざめ(apathy)ていることだという。


興ざめ、の背景には両候補のイメージがある。20251月のアメリカ大統領就任時にトランプ氏は78歳、バイデン氏は82歳と高齢だ。加えて、この二人は怒りをぶちまけている。バイデン氏は、トランプ氏と支持者達が2020年大統領選の結果を受け入れず、暴徒がアメリカ議会に乱入し、アメリカ民主主義を破壊する輩であると怒りを露わにし、さらにこの重大事をもっと取り上げないメディアにも怒りをむき出しにする。一方、トランプ氏は、多くの刑事事件で起訴され、ニューヨーク州から詐欺罪で500億円以上の罰金を課され、2度もアメリカ議会で弾劾裁判にかけられたことは全て濡れ衣だと主張し、バイデン氏と民主党への復讐を誓う。


この怒る二人は国民を挑発する。バイデン氏は、トランプ再選はアメリカ精神の終焉だ、トランプは戦犯プーチン支持者だ、温暖化対策は終わる、アメリカは世界から孤立する、トランプは司法を私物化して訴追を逃れようとしている、と挑発する。トランプ氏は、バイデン2期目こそアメリカの終焉だ、汚職まみれの既存エリート支配によりアメリカは崩壊している、移民という「害虫」にアメリカは蝕まれている、とやり返す。この老人達の泥試合を見て、多くの国民は興ざめている。


無所属で立候補するロバート・ケネディ・ジュニア(70歳)の存在が気になる。2020年選挙のように僅差の場合、ジュニアに票を奪われた方が負ける。同氏は、既存の2大政党政治を破壊すると約束し、有権者の半数を占める若者層(怒る老人対決に興ざめた層)の支持を獲得するかもしれない。


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