【TOYO EIWA―THE WORLD COMMENTARY】5期目プーチン露大統領の蹉跌ー町田幸彦教授

 東洋英和女学院大学は、国際関係研究所(https://www.gendaishikenkyu.net/)を付置しています。同研究所では、一般の方向けにわかりやすく時事問題を解説するToyo Eiwa The World Commentaryを発出しています。

 この度新しいコメンタリーが発出されました!ぜひご一読くださいね。


5期目プーチン露大統領の蹉跌

町田 幸彦(国際社会学部 教授)

   

329日、テロ事件が発生したコンサートホール前に献花する人々©NATALIA KOLESNIKOVA / AFP


ロシアのプーチン大統領は3月1517日の大統領選挙に圧勝し、意気揚々と3年目に突入したウクライナ侵攻の大攻勢へと向かうはずだった。ところが、露国内の大規模テロ事件が目算を暗転させた。内憂の影がつきまとう5期目プーチン体制は、「西側」及びNATO(北大西洋条約機構)という“外患”の増幅に躍起になるばかりだ。


モスクワ近郊のコンサートホールで3月22日起きたテロ銃撃事件では同月末までに、143人の死亡が確認された。拘束された約10人のうち実行犯として起訴された4人はいずれも旧ソ連・タジキスタン出身という。事件後に過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。プーチン政権はIS下部組織の犯行を追認しつつ、「ウクライナや欧米の関与」を主張する。ウクライナと米国はロシアのプロパガンダを全面否定している。


情報錯綜の末、真相は闇の彼方に。いつものロシアの展開であるが、事件関連の経緯から権力機構内部の決定的変異が透けて見える。その実態はプーチンの大失態劇だ。

 

第一幕は、露大統領選2日後の3月19日、モスクワ中心部の露連邦保安庁(FSB)本部で開かれた拡大会合。過去最高の得票率8728%で通算5選を決めたプーチン大統領は1時間以上演説した。演説でロシア国内のテロ事件の危険を米国が通告したことを明かし、「西側の挑発」とプーチンは非難して斥けた。そして第二幕、22日の大惨事の事件。米大使館は3月7日、ロシアへの警告でテロ襲撃対象に「コンサートも含まれる」とわざわざ明示していた。FSB部隊の現場到着は事件発生から1時間後という後手の対応だった。さらに、第三幕は、ロシア・メディアを巻き込んだウクライナ・西側関与説の大合唱。


これに先立ち、FSB特殊部隊は3月2日、ロシア南部でISメンバーと特定した6人を殺害した。同7日、ISが計画したモスクワのユダヤ教会テロ襲撃をFSBは阻止し、「犯人が銃撃戦で死亡した」と発表した。(ロイター通信、タス通信など) 


緊張高まる国内で面目まるつぶれのプーチン大統領に権威の陰りが生じている。結果的にそうなったのか、そのように仕組まれたかはまだ分からない。ただ、過去のプーチンのような力は確実にそがれている。大統領選挙の高支持の数字が虚しく映る。

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